制御工学ブログ

制御工学の研究者を20年やっている国立大学教員が制御工学の基礎から専門まで広く説明します。記事内では、動画やMATLABコードを交えながらわかりやすく解説する方針です。

LaTeX論文執筆ガイド:数式や図の書き方を徹底解説

ここでは、LaTeXによる論文やレポートの執筆方法について説明します。特に、数式の多い分野では文系・理系を問わずLaTeXによる執筆が便利です。また、書籍もTeXで執筆することができます。クラウドサービスによるTeX利用や、基本的な数式・図・表・参考文献の記述方法についての解説をしています。冒頭にTeXのメリットを解説します。

2024/2/17現在、初期投稿として記事をアップロードしましたが、本日より数カ月かけて更に更新していき、最終的にはボリュームを5倍くらいにして良いものを目指していこうと考えています。

 

TeXによる論文執筆のブログ記事作成経緯

本記事を書くにあたり、「TeXによる論文執筆」の解説記事執筆依頼を頂いたというのがあります。そして、DXという観点からのTeX論文作成について期待されているということでお聞きしたことから、解説記事を執筆するだけでなく、その執筆記事と他の媒体とのコラボレーションが必要不可欠だと思い立った次第です。TeXで論文執筆する上では、まずは「成功体験」が必要です。つまり、「TeXで論文を執筆したい」と思い立ったときに、「TeXで原稿を書く土俵に立てない」や「どう書いたら良いか迷う」という形で挫折しないように道筋を立てる必要があります。具体的には、テンプレートの拡充や、数式記述例などを通して、まず、ほどよい文章をコンパイルし、良い出力・出版物(PDFファイルとして)を得る成功体験を得てもらいたいと考えました。そのためには、解説記事から、サポートページを通して情報提供できる仕組みづくりが良いと考えました。

本記事は、解説記事執筆の基礎を固める目的で作成しています。後半部分では、執筆予定の解説記事のためのサポートページと連携する仕組みを設けていく予定でいます。

TeX自体についてより詳しく知りたい場合はTeX Wikiが参考になります。

LaTeXのメリット

式番号や章のラベルと引用

論文執筆時に、章を入れ替えたり文章を入れ替えたりして数式や引用順が入れ替わるケースが多々あります。

これに対して、マークアップ言語であるLaTeXでは、命令により式とそのラベルが関連付けられるため、数式や表の番号付けや引用文献の参照ラベル付けが容易です。また、章ごと入れ替えて式の順序が変わっても適切に参照番号が設定されます。

ワープロソフトで執筆する場合、ソフトウェアによっては式番号や論文引用のラベル付けに難があるケースがあります。アドオン等もない場合は、式を入れ替えると、引用箇所のラベルも入れ替える作業が必要になります。このような、文献管理の可否や図表・数式番号の管理方法はソフトに依存します。

バージョン管理の容易さ

テキストファイルであることから、Gitなどのバージョン管理システムとの親和性が高いことが利点として挙げられます。また、バージョン管理システムを利用しなくても、TeXのソースプログラムはテキスト形式ファイルであり容量が小さいことから、複数保存して日付で管理しておくこともできます。論文執筆時には、試行錯誤が多く行われるため、過去のバージョンを残しておくことは効率的な執筆につながります。

エディタの種類

好みのエディタソフトを利用して執筆することができます。エディタの例としては Tex works や EmacsVisual Studio Codeサクラエディタなどが挙げられます。

保守管理の容易さ

上述のバージョン管理の容易さにも関係しますが、テキストファイルである「.tex」拡張子のファイルがベースになり、その容量が小さいことから数十年単位での管理・保守が容易です。

どうしても、ファイル容量が大きいと一部破損によって利用できなくなることがあります。TeXではそのような事象は置きません。(もちろん、一部の画像ファイルが破損してコンパイルできなくなる等、部分的なデータの毀損は生じえます。)

 

 

クラウドサービスによるTeXの利用方法

TeXを利用するには、TeXパッケージのインストールが必要になります。インストールには、TeXWikiなどを参照するのが良いと考えられます。

また、クラウドサービスとして、OverleafShareLaTeXCloudLaTeXなどがありますが、ここでは、筆者はCloudLaTeXを使っているため、それに沿った説明を行います。CloudLaTeXは日本語対応のLaTeX編集・組版サービスであり、アカウント作成後に利用可能です。2024/4/10現在,CloudLaTeXでは、共有機能が追加されています。

youtu.be

 

初歩的なLaTeX利用

まず、もっとも簡単なTeXのソースプログラムを表示します。

TeXソースコード

もっとも簡単なTeXソースの例

このソースプログラムをコンパイルすると、「本文」と記載されたPDFファイルが生成されます。

documentclassから始まる先頭部分はプリアンブル部といい、作成する文書の体裁や用紙サイズ、段組みなどのオプション項目を記載します。ここで記載した内容が文書全体に影響を及ぼします。

プリアンブル部と本文

TeXソースの構成

LaTeXを用いた文書執筆の初学者向け記事としてまとめています。

>>LaTeXを用いたレポート作成

 

論文執筆時のLaTeX基礎事項

文書の書き方

基本的なLaTeXでの文の書き方を説明します。まず、文書全体がわかりやすくなるよう、章や節で単元をまとめます。これらの方法については、レポート・卒論修論・学術論文のそれぞれで示しています。

文の改行を行い、次の段落に行くには「空行」を用います。また、インデントのない改行には、「\\」を記号として用いることで改行できます。

また、論文中で使うことはあまりありませんが、\vspace{}や\hspace{}で空白を調整することもできます。この他、箇条書きをするためには item 環境を用います。

箇条書きitem環境

箇条書き(コード)

この出力例はこちらです。

箇条書きの出力結果(item環境)

箇条書き(出力結果)

数式の書き方

数式の書き方について概要を示します。より詳細な内容はこちらのリンクをご覧ください。特に、数学記号やアクセント、行列の改行などマニアックな内容になっています。

>>数式のLaTeXにおける記述

数式のTeXコード例

数式を記述する上で、amsmath, amssymbのパッケージを使うことで各種の数学記号等を自由に使えるようになります。数式の記述例(コード,出力)を以下に示します。

TeXのコード(数式)

コード01

TeXの出力(数式)

出力01
数式の参照

上記のコード01では、ラベルとして[ラベル01]を設定しています。出力01の式番号は(1)です。

この式を文中で引用する場合は、(\ref{ラベル01})や(\ref{ラベル01})式という形でTeXソース内で記述します。これによって、出力では(1)や(1)式のように表示されます。ラベル付けしていないラベルを参照したり、複数同じラベルを付けた場合はうまく出力されないため注意してください。

表の書き方

表の書き方について概要を示します。より詳細に図表について述べた記事はこちらのリンクをご覧ください。

>>図表のLaTeXにおける記述 

表のTeXコード例

次の表1(Table1)を出力する場合を考えます。

TeXにおける表の出力例

表の出力例


このとき、Table 1を表示するためのTeXソースコードは以下で示されます。

TeXによる表の記載方法

TeXソース(表の作成)

 

\hline は横線を表しており、\begin{tabular}の直後にあるcは1列目、2列目の要素の配置位置を、|は縦線を示している。テーブルの要素内での位置を左、右、中央に寄せる場合はそれぞれ、l、r、cを配置することで実現できます。例えば、全部左寄せにする場合は{|c|c|}の代わりに{|l|l|}とすればよいです。

表の参照

式の場合と同様に表を参照する場合は\ref を用います。具体的には、表1の場合のTeXコードは Table~\ref{table:01} となります。

図の貼り方

図の書き方について概要を示します。より詳細に図表について述べた記事はこちらのリンクをご覧ください。

>>図表のLaTeXにおける記述 

図のTeXコード例

まず,パッケージとしてgraphicxを設定します。図の貼り付けを行う場合、以下のように記述します。

TeXによる図の記載方法

図の記載

 

figure環境の冒頭に記載されている [!h] は、図の配置を制御するコマンドです。出力PDF内部のテキストとの相対関係で、テキストの一番上に持っていきたい場合は 「t」 一番下は 「b」 そのままの配置は 「h」が使用されます。

ここで、「**.eps」|はeps形式の画像ファイルです。texソースと同じフォルダに画像を置きます。画像のファイルタイプは、eps形式に加えてps形式、jpg形式、png形式が利用できます。また、メインのtexファイルの下位フォルダに画像ファイルを置いている場合は「**.eps」の代わりに「フォルダ名/**.eps」とすれば良いです。captionには画像の説明を記述します。

また、図を2つ並べたい場合は以下のようにコマンドを記述します。

図の並列表示

図の並列表示
図の参照

labelに記載した記号列が図の参照に用いられます。このケースではFig.~\ref{figref:01}とすることで出力できます。図番号は、何番目に配置した図かに依存して自動で割り振られます。

 

 

参考文献の記載

文献の引用は以下の形式で記述します。文末に置かれるケースが多いです。

参考文献リストのLaTeX内での記述

参考文献リスト
文献の参照

bibitemの後の括弧が引用のためのラベルとなります。例えば、文献\cite{c:01}とTeXソース内で記述すれば、出力されたPDF上では「文献1)」として表示されます。

 

はじめてのLaTeXによるレポートの作成

LaTeXを用いた文書執筆の初学者向け記事としてまとめています。

>>LaTeXを用いたレポート作成

LaTeXによる卒業論文修士論文の執筆[テンプレート含む]

LaTeXを用いて卒業論文修士論文を執筆する方向けの記事です。

>>卒業論文・修士論文のLaTeXによる作成(工事中)本項目は,2024.3-7で完成させる予定です.

卒業論文修士論文向けのテンプレートはこちらです。

>>卒論・修論TeXテンプレート

LaTeXによる学術論文の執筆[サンプル]

>>TeXによる論文執筆サポートページ(工事中)本項目は,2024.3-7で完成させる予定です.

関連記事・参考文献

岡島 寛,長い研究者生活で、論文を数十篇書いていく上で重要なこと,ブログ記事

TeX Wiki TeX Wikiには充実したコンテンツがありますが、その中でいくつかピックアップします。


奥村,黒木,[改訂第9版]LaTeX美文書作成入門,技術評論社 (2023)

CTAN: Comprehensive TeX Archive Network

間下 以大,オンラインLaTeXエディタ,映像情報メディア学会誌,71-4,499/502 (2017)

坂東 慶太,オンラインLaTeXエディター“Overleaf”:論文投稿プロセスを変革する共同ライティングツール,情報管理,60-1,43/49 (2017)

山本 裕,SICE著者のためのLATEXべからず集,計測と制御,34-11,889/896 (1995)

山本,永原,LaTeXによるISCIE論文作成術,システム/制御/情報,56-7,367/374 (2012)

小川 一人,TEX,Winshellを使った論文執筆,映像情報メディア学会誌,67-6,496/499 (2013)

小川 一人,TEX,Winshellを使った論文執筆その2 ~ワードからTEXへの移行方法~,映像情報メディア学会誌,68-4,327/329 (2014)

岡,伊藤,TeX入門 第3回「TeXによる論文投稿」放射線化学,95,45/48 (2013)

吾妻 健夫,LATEXによる論文作成 (第1回) LATEXによる文書作成 (その1),映像情報メディア学会誌,57-8,952/955 (2003) シリーズ形式:LATEXによる論文作成,第1回~第4回

関連動画

youtu.be

 

LaTeXによる論文執筆に関して説明した本記事は以上になります。

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自己紹介

岡島 寛 (熊本大学工学部情報電気工学科准教授)

制御工学の研究をしています。モデル誤差抑制補償器,状態推定,量子化制御など

研究室HP

岡島寛 (システム制御 control-theory.com)

English Web Page

Hiroshi Okajima (Control Engineering control-theory.com)

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