制御工学ブログ

制御工学の研究者を20年やっている国立大学教員が制御工学の基礎から専門まで広く説明します。記事内では、動画やMATLABコードを交えながらわかりやすく解説する方針です。制御工学チャンネル(YouTube,動画ポータル)を運営しています。

状態オブザーバとは?オブザーバの基本メカニズムの理解

この記事では状態方程式表現されたシステムの状態推定器(状態オブザーバ)についてまとめます。状態方程式表現されたシステムの状態オブザーバについて説明した動画は最下部に置いています。オブザーバは,観測できない情報を計算機内で観測することからソフトウェアセンサー(ソフトセンサ)とも呼びます。

なお、状態フィードバック制御の全体像は次の記事でまとめています。

状態フィードバック制御・状態方程式に基づく制御のまとめ

状態オブザーバの概要

それでは状態オブザーバーについて説明をしていきたいと思います。制御系において、必ずしも、システムのすべての信号をセンシングできるとは限らないことから、状態を推定する必要があります。状態方程式において、一般的に(速度や位置など)の変数を状態とし、観測出力とは別のものとして考えます。状態の値を用いた状態フィードバックを施す上ではわからない状態を推定する必要があります。例えば状態が[位置],[速度]の2つで、観測出力が[位置]のみの場合は[速度]は計測されていないため、速度推定値を求める必要があります。

制御対象が図のように与えられていて、これにu=-Kx という状態フィードバック制御を施す場合を考えます。状態フィードバック制御は制御工学分野で最も基礎的な制御手法の一つです。このとき、状態フィードバック制御では、すべての状態を使うことが前提となっています。状態オブザーバによって推定値が求まれば、その推定値を代わりに用いることで状態フィードバック制御が実現できます。

状態量と状態フィードバック制御の関係について示す図

状態フィードバック制御と状態量

一般的には、状態の数と観測できる出力の間には、図のような関係があり、状態数の方が、観測できる出力数よりも多くなります。

センサと状態の信号数が異なること、センサが少ないことを示した図

センサ数と状態数の関係

状態オブザーバの基本的な考え方

ここでオブザーバーの基本的な考え方について説明します。


まず制御対象のダイナミクスが以下の図の上部ように与えられていたとき、これに対して同じA, B, C 行列で与えられる、制御対象のコピーを計算機上に作成します。これを数理モデルと呼びます。制御対象に制御入力を印加したとき、それに対して出力が現れますが、制御対象と同じ入力を制御対象のコピーに印加してやると、数理モデルの状態は制御対象の状態に似た振る舞いをします。

状態の振る舞いを表した図

制御対象の状態とモデルの状態の関係(安定)

仮に、システムのA行列の極が安定極の場合、さらに、制御対象の状態と数理モデルの状態の初期値が一致していれば、外乱なし環境下では制御対象の状態と数理モデルの状態とが全ての時刻で完全に一致します。

状態の初期値が一致していなくても、Aが安定な場合に関しては、この初期値の影響は時間の経過とともに小さくなっていきますので、入力を入れてしばらくすると制御対象の状態と制御対象のコピーである数理モデルの状態とが近くなっていきます。

このため、数理モデルの状態を制御対象の状態とみなして状態フィードバック制御で用いることができます。

ここでさらに、この制御対象の出力と、この制御対象のコピーにおける出力との偏差をフィードバックに用いることによってより収束の精度を良くすることができます(下図参照)。

オブザーバの基本構成を示した図

オブザーバの基本構成

以上がオブザーバーの考え方になります。

オブザーバの立式

具体的に基本となる状態オブザーバーは以下の式で与えられます。

 \dot {\tilde x} (t) = A\tilde x (t) + B u(t) - L(C\tilde x(t) - y(t))

ここで、 y(t) は観測出力です。

このような構成を行うことによって、 \dot x(t) = Ax(t)+Bu(t) との差を考え、状態の推定誤差 e(t) = x(t) -\tilde x(t) に関するダイナミクスは次式で示されるダイナミクスとなります。

 \dot e(t) = (A-LC) e(t)

ここで A - LC の項が安定となるようにLを設定してやると、それによってeはゼロに漸近していきます。このオブザーバは Aが不安定であっても (C,A) の組が可観測であれば実装可能です。

状態オブザーバーの仕組みであり、これによって状態と、状態の推定値との偏差がゼロとなることから、状態の推定値を状態だとみなして制御に用いることによって、制御系全体がうまくいきます。

状態オブザーバの式を表した図

状態オブザーバの推定誤差ダイナミクス

ここまで、状態オブザーバの基本構成と立式について説明を行いました。以上で状態オブザーバの説明を終わります。

オブザーバ併合系

状態オブザーバと状態フィードバックを併用したシステムをオブザーバ併合系(オブザーバ併合状態フィードバック制御)と呼びます。

オブザーバ併合系

システムの次数は 2nとなり、オブザーバ構成によって得られる閉ループ極(  A-LCの極)と、状態フィードバックによる閉ループ極(  A-BKの極)とが制御系の特性を決めることになります。このように、それぞれオブザーバと制御器を独立に設定できる特徴のことを分離原理と呼びます。

オブザーバ併合系での制御入力は u = -Kxの代わりに推定値 \tilde xを用いて u = -K\tilde xとします。そのため、状態偏差 e(t)は速く収束してほしいので、オブザーバ極は複素平面上のより左側に配置することになります。

オブザーバとフィードバック制御の極の関係

blog.control-theory.com

 

状態推定に関する関連動画

以下は,状態方程式表現されたシステムの状態オブザーバについて説明した動画になります。

youtu.be

状態オブザーバの研究

外れ値を含むセンサ信号で状態推定を行う場合、その影響で推定結果が大幅に劣化します。そのような劣化を防ぐオブザーバの研究結果が以下でまとめられています。

research.control-theory.com

制御工学チャンネル内の関連ページ(状態オブザーバ)

>>制御工学チャンネル:500本以上の制御動画ポータルサイト Control Engineering Channel - State-Estimation (control-theory.com)

>>制御工学チャンネル:500本以上の制御動画ポータルサイト Control Engineering Channel - 01-Prof.Okajima-03 (control-theory.com)

 

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自己紹介

岡島 寛 (熊本大学工学部情報電気工学科准教授)

制御工学の研究をしています。モデル誤差抑制補償器,状態推定,量子化制御など

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岡島研究室(システム制御 control-theory.com)

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