以下のリンクの記事の中で、大学教員として生き残る上で、教員ポストが減っていっている以上は他の分野の研究者との公募戦線での争いになってしまう旨と、インパクトファクターや論文数に関する考えについて最後に触れています。最後にも同じリンクを貼っておくので、以下のリンクには行かずに本記事を読んで頂ければ幸いです。
ここでは、「被引用や論文数が少ない分野の研究者は、他の研究分野に対してどういうポジトークをすればよいのか?」について書いていきます。
では、そもそもパイが少なく論文が多くなり得ない分野はどのように考えればよいか?という視点で書き進めたいと思います。
この記事は、渡邉究先生のポストをきっかけに書いています。
先程のリンクを修正しました⇩
— 渡邉究/数学科准教授/YouTube (@Kiwamu_Watanabe) 2024年1月20日
日本数学会による数学の業績評価に関する記事。https://t.co/GipEssKEns https://t.co/32qR1XBo6m
これに対する率直な私の感想ポストはこちらです。
至極まっとうで、日本数学会が学会としてこのような文章を出すのは素晴らしい。制御理論も数学と似ていて、共著者数は少なく、短期では評価できず、長いスパンで評価・引用されていくケースが多いと思う。
— Hiroshi Okajima (@control_eng_ch) 2024年1月20日
計測自動制御学会やISCIEも会員(研究者)の立場に立って同様の声明文を出してほしい。 https://t.co/8Wzv8Pkuw2
研究分野ごとの論文数の違いについて
渡邉先生のポストにあるリンクの、日本数学会による数学の業績評価に関する記事は数学分野だけでなく数式が並びまくる制御理論分野にとっても大いに参考になります。
数学の研究業績評価について
https://www.mathsoc.jp/assets/pdf/activity/statement/kaiho83-kenkyu.pdf
研究分野ごとに論文 1 本あたりにかかるコストは大幅に違います(と思います。)。論文の著者数が 1 名(単著論文と言います)が多いケースや、複数人が著者に並ぶケース(数百人規模というケースもあるそうです)など論文によって様々です。また、標準的な論文のページ数やone columnタイプ・two columnタイプなどフォーマットも分野で大幅に異なります。今現在、インパクトファクターで評価するにあたり、論文 1 本あたりのページ数が 1 ページであろうが 50 ページであろうが同じ 1 本としてカウントされます。同様に、同じ論文内での引用数が 5 であろうが、200であろうが、被引用 1 本は同じ価値とみなされます。
今は、同じ分野の似たような研究を同時期にしている人が多いほど、2年の引用数で評価するインパクトファクターという指標の面では有利であり、自分以外に専門家の居ない独壇場の分野が仮にあるとすると、それは不利ということになります。
論文・研究業績の様々な考え from Google検索
Googleで「研究業績 論文」と検索すると、業績リストの書き方のページや記入例みたいなページにヒットするわけですが、これを、「研究業績 論文数」として検索すると、色んな研究者の色々な思い・考えを垣間見ることができます。上述の日本数学会の記事も検索で1ページ目に引っかかります。ここでは、検索結果の一部をピックアップします。
業績の美学(情報・システムソサイエティ誌,97号)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/ieiceissjournal/24/4/24_12/_pdf
研究業績と論文執筆についての雑感
https://www.chem.miyazaki-u.ac.jp/~webms/pub.htm
研究業績を見るときの注意(学生向け,私見)
https://u.muroran-it.ac.jp/yt-lab/TPA.pdf
論文数をカウントする手順と正確性の限界(大学評価とIR,第15号)
https://iir.ibaraki.ac.jp/jcache/lib/docu/015_r0404/015_r0411-04_fujii.pdf
よくみる業績評価指標の基本 インパクトファクター・TOP10%論文等
https://eprints.lib.hokudai.ac.jp/dspace/bitstream/2115/76428/4/OAWseminar2019_kono_rev.pdf
大学教員と論文業績(日大医誌 Vol. 81)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/numa/81/2/81_87/_pdf
これらのリンクの結論だけ書いておくと、多くは、単なる数字だけで判断することの危険性について触れています。
制御工学分野の業績
制御工学分野では、two columnタイプで、著者数は1~5名くらい、論文ページ数は8~12ページ程度が多いと思います。one columnでは20ページ程度かと思います。
前の方で述べた論文ページ数に加えて、インパクトファクターについても、分野で異なります。制御理論だとトップの論文誌は恐らくIEEE Trans. on Automatic Control か Automatica が該当すると思われますが、それらのインパクトファクターは 5 程度です。査読に時間が掛かる分野ということもあり、インパクトファクターの基準となる2年間の引用数が大して伸びないのが原因の一つでしょう。他方、同じ制御分野でも、応用系の IEEE Industrial Electronics なんかは 8 くらいあります。細かく調べていないのでわかりませんが、他の分野でインパクトファクターが 20 とかとてつもない数字になるのは、論文一本あたりの引用数や掲載までの時間が違うのだろうと考えています。
研究業績の評価方法(ポジトーク)
数値でどうしても評価せざるを得ないときに、どのような評価基準だと(制御屋のポジトークとして)自分が納得できるかというのを考えたいと思います。
3つ挙げてみます。
- 研究論文数を共著者数で割った数字を使う
- 所属学会の歴代会長の業績を分母にする
- 研究論文数を平均著者順位で割った数字を使う
まず、最初に挙げたものは、日本数学会のものそのものになりますが、論文数を著者数で割るというものです。著者数が 5 名で論文 5 本というのも、単著で論文 1 本も、一人あたりのアウトプットは一緒ですので、業績をカウントするのであれば、研究者の研究遂行能力を論文数で測るつもりであれば、単純に掲載論文数を評価に使うよりは、著者数で割った数字を合算する方が合理的と言えます。デメリットは計算が煩雑になることです。
二つ目は、所属学会の歴代会長の業績を分母にするもので、分野が異なる人間を無理に研究業績で比較するには、その分野のトップ研究者を基準にした方が良いということで取り上げたものになります。おおよそ、学会長になるような人は研究能力やアクティビティも高いだろうということで、それを分母として相対量がどれだけか?という測り方をするというものです。
ただし、このやり方には大きなデメリットがあり、研究者は多くは様々な学会に所属するため、分母を恣意的に決める可能性があるということです、AIによる業績評価みたいなものが発展されて、浸透してくれば目安の一つとしては使える可能性がありますが、前途多難な指標です。
三つ目は、一つ目と似ていますが、論文の平均著者順位で論文数を割った数字です。著者順位は基本的に前の方が貢献が高いとされます。そのようなことから、1st authorの方が、2nd authorよりも貢献しているということで重み付きで評価するのが、この三つ目の方法になります。このデメリットは、分野によって著者順が貢献順ではない分野があることです。
論文数が少ない分野のポジトーク(結論)
結論としていえることは、論文数とかの指標は参考程度として、何を研究したかをしっかり見極めた上で研究評価をするのが良いということです。論文数や被引用数が多い分野の研究者は、声を大にして論文数や引用数が多いことが良いと主張します。これは、当該分野発展のためのポジトークであり、それ自体は当該分野所属の研究者としては至極当然のことと思います。しかしながら、論文数や被引用数が少ない分野は、それはそれとしてポジトークをするべきだし、そのような話は全体として少ないように思います。
東京大学がサンフランシスコ宣言(DORA)への署名をしたということで注目されましたが、評価指標の見直しもあるかもしれません。期待したいです。
DORAでは、「出版物の数量的指標やその論文が発表された雑誌がどのようなものであるかということよりも、その論文の科学的内容の方がはるかに重要」とされています。
— .·.✧·* ́ඕั ළɎ࿃ूੂख.·.✧·* ́ඕั (@Lotus_Solus) 2024年1月26日
研究評価に関するサンフランシスコ宣言(DORA)への署名について | 東京大学 https://t.co/QdcEUcQs9Z
前述したように、再度以下のリンクを貼っておきます。
自己紹介
岡島 寛 (熊本大学工学部情報電気工学科准教授)
制御工学の研究をしています。モデル誤差抑制補償器,状態推定,量子化制御など
研究室HP
岡島研究室(システム制御 control-theory.com)
制御動画ポータルサイト
制御工学チャンネル(伝達関数・状態方程式・MATLABなど)
電気動画ポータルサイト
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