制御工学ブログ

制御工学の研究者を20年やっている国立大学教員が制御工学の基礎から専門まで広く説明します。記事内では、動画やMATLABコードを交えながらわかりやすく解説する方針です。

卒論・修論発表のためのプレゼンテーションのノウハウ

卒論・修論のプレゼンテーションに関する記事です。卒論・修論は集大成です。そして、卒論・修論と共に重要なものが研究プレゼンテーションであり、できるだけ良い発表をできるよう頑張りましょう。本記事は、プレゼンの準備方法や相互チェックシートなど、プレゼンテーションの準備に必要な内容をまとめています。最下部には、プレゼンテーションに関係するYouTube動画8本へのリンクがあります。

 

卒論発表・修論発表とは?

大学、企業、研究所などでは研究を進めますが、その内容の発信は、研究を進めることと同様に大事な研究活動の一つになります。発信の方法としては、学術論文などの形で文章として公表する方法、学会発表などの形でプレゼンテーションにより公表する方法があります。ここではその前段階として、卒業論文発表・修論の試問会でのプレゼンテーションに絞って話を進めます。大学生、大学院生は、卒論発表や修論発表などがありますので、これらのプレゼンテーションが自身の卒業、修了のために必須です。ここでは、プレゼンテーションの方法を説明していきます。卒論発表に加えて学会発表をするという場合、卒論発表の出来が、その後の発表にも繋がっていくでしょうから、かなり重要になります。

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発表(プレゼン)の流れ

通常、多くの研究発表では時間が設定されています。工学系の学会の場合、5名の発表で1セッションとしたセッション単位で構成され、1セッション1時間半程度という形になります。分野によって異なりますので、8名1セッションであったり、4名1セッションであったりと様々な構成があります。発表時間は、トータルの時間が15分の場合は、発表12分質疑3分、トータルの時間が30分の場合は発表25分質疑5分という風に、発表時間と質疑時間が定められていることが一般的です。特別講演や招待講演など、発表時間が1時間を超えるものもあります。
これらと同様に、卒論発表や修論発表でも時間は決められています。例えば、発表時間10分、質疑時間5分という風に定められます。大学ごとで時間は様々ですが、詰めてスケジュールが組まれていることも多いですので、時間厳守でスケジューリングすることが必要になります。

スライドの作成と練習の流れ(10分の説明動画)

以下の動画では、スライド作成の方法や、発表練習の方法、質疑対応のための準備について10分で説明しています。

 

以降では、具体的なスライド作成手順について述べていきたいと思います。

スライド作成

1枚のスライドで主張することは1つ

発表のスタイルは色々ありますが、1枚のスライドあたりに詰め込む情報の分量は多くても少なくてもデメリットが生じます。基本的に、1枚のスライドで言いたいことは1つに絞った方が良いと考えています。

スライド間のつながりを重視

人間の記憶力は有限です。そのため、前のスライド、後ろのスライドとの関係に繋がりを持たせることも重要です。全てを繋げることは難しいにせよ、できるだけ繋げた方が印象に残りやすい発表になります。

「はじめに」・「目的」と「おわりに」とで整合が取れているかも重要です。スライド作成段階で注意すべきポイントの一つになります。

プレゼンで全体的に考慮すべき事象を説明した図

プレゼンテーション全体の流れ
各スライドで意識すること

フォントサイズは重要です、小さなサイズを使うと見えません。会場の広さに依存するものの、20pt以上をデフォルトとして作成した方が良いです。また、文字列が長すぎると聴衆の頭に入らないため、できるだけ単純な文字列となるように心がけましょう。色は、多くても3種類程度が良いです。

また、スライド内で使用するフォントによって、印象はかなり違います。どのフォントがお勧めというものはありませんが、フォントを変えると印象が変わることは色々なフォントを試して勉強しておくと良いです。

  • フォント例:丸ゴシック、ポップ体、教科書体、ゴシック体

また、文字ハイライトも、印象を大きく変えることになりますので、枠を囲んだり背景の色を変えたりして試すと良いです。

フォントとハイライトによってスライドの印象がどう変わるかを示した図

フォント・ハイライトと印象
スライド1枚あたりの発表時間

スライド1枚で話す時間は人それぞれですが、30秒から2分程度が良いです。目安は1分です。まずは、1スライドあたり1分しゃべると考えてスライド枚数を作成します。1枚で話過ぎても、短すぎてもデメリットがありますので、バランスを考えて各スライドごとにどれくらい時間をかけるかを決めます。

プレゼンにおけるスライドの構成を示した図

プレゼンの全体像
スライド内の数式

制御工学分野では卒論・修論の内部に多くの数式が入ります。数学分野や機械学習・統計分野でも同様に式が多くなると考えられます。論文内の式をそのままスライドに持ってくると式が多めのスライドが多数を占めることになります。しかし、式を理解するためにはその説明が重要であり、説明不足のまま式だけ載せる(ことが多い)と、聴衆にとっては「理解できない式」になってしまいます。どの式を掲載して、どの式を省略するかを精査することが重要になってきます。

卒業論文修士論文研究発表時の聴衆は「誰」と考えるべきか?

発表会場には、主に同じく卒論・修論を発表する発表者が大勢いることになります。また、審査(修士の場合)があることから指導教員以外の教員が多数いることもあるでしょう。このような場合、誰をターゲットとしてプレゼンをするかで、プレゼンテーションとしての良し悪しが変わってきます。聴衆が満足できるようなプレゼンを心がけましょう。特に、最初の数枚のスライドは、メインの聴衆が誰かを意識して作成するとよいです。

指定発表時間に対する考え方と時間配分

指定されている発表時間に対する捉え方に関する私見です。発表時間よりも早く終わる分には、文句はありませんが、発表時間を経過し、質疑の時間に入っても終わりが見えない発表は、聴衆の評価は高くなりにくいです。例えば、発表時間が終了したのに、まだ話していると低評価となります。卒論発表の発表時間を考えた上で時間配分はきっちりやりましょう。

発表時間のうち、どの内容・どのスライドに何分時間を使うかは事前に決めておき、発表スライド全体の2/3を終えたタイミングの時間に基づいてしゃべる速度を調整します。

原稿作成と発表練習のコツ

そのために重要になる(特にはじめての発表の場合)のは、原稿です。原稿を作成し、練習を進めると共にブラッシュアップしていくことで、より洗練された発表になります。

ある程度構成が綺麗にまとまったスライドの作成後はとにかく練習をします。50回は発表練習をして下さい。50回のうち、話している中で違和感のある部分のスライドを修正します。50回という数字だけ見ると多く感じるかもしれませんが、12分の発表であれば600分程度です。600分=10時間は1日で終わる量ですので、プレゼンテーションを技術向上させていく上での50回はそこまで多くはないです。

プレゼンテーションの原稿作成

原稿の作成
相互練習の重要性

10日前に大まかなスライド作成が終わっていればこなせる練習量かと思います。個人で練習するのも良いですが、人に見てもらって意見をもらう方がより良いです。同時に、見てもらうだけでなく、同期の練習を積極的に見ることで、自分のスライドの改良に繋がりますので、積極的に人の発表練習も見ましょう。

練習時には、本番での発表をイメージします。聴衆の方を向いて発表することが理想的です。(これは、結構難易度が高いです。)練習をこなせば、聴衆を見ながら発表できるようになります。

卒論・修論スライド相互チェックシート

以下は、プレゼン練習をする上でのチェックシートです。主に、スライドに関するものです。誰が発表を聞く人なのかも、スライド作成においては重要な要素です。卒業研究発表会は主に、大学教員や学生が聴衆になりますので、それを想定して、少なくとも「目的」と「成果」は聞いているすべての人にわかるように心がけてスライド作成してもらえればと思います。最初の発表の場合はこれらの作業も大変でしょうが頑張ってください。どんどん慣れます。

drive.google.com

プレゼンチェックシート

質疑応答の準備と回答形式

質疑は、主に教員がすることが多いかもしれませんが、聴衆は他研究室の学生(同級生)が多くなります。専門分野外の場合には、研究の前提条件が伝わっていない可能性もありますので、どのような人が質問してきたらどのように答えるかなどの複数想定をしておくとよいでしょう。質疑においては、発表者は、質問者に対して同意するケースもあれば、否定で入るケース、その場の質問時間では答えれないケースなど様々にありえますので、どのような質問が来たらどのようなスタンスで答えるか、答え方については色々と想定しておきましょうおきましょう。

参考までに学会の場合(質疑対応)を示しておきます。学会の重要な役割として、研究成果の公表・発信がありますが、これに加えて質疑応答も重要になることがあります。質疑によって、次の研究への方向性が定まったり、他の研究者や技術者との交流に繋がったりしますので、質疑の短い時間を有効に使わない手はないです。そのためには、事前に想定質問を考え、それに対する答えを準備しておくことが有用です。想定質問は自分で思いつくことは少ないので、できれば他の研究者や(学生の場合は)同級生に発表を練習段階で見てもらって、そこで質問を引き出してみるのが有効かと思います。そこで得た質問で、プレゼンに反映できるものは反映させても良いです。質疑終了&セッション終了後にさらに質問者とのやりとりを行うことで、知見が広がることがあります。

質疑の回答も重要ですが、学会発表時には、「質問者になる」というのも有用です。具体的には、質問をすることを前提として、発表を聞くことで、より研究発表の理解が進みます。

卒業研究発表・修士研究発表に関するYouTube動画(8本)

最後に、プレゼンテーションのための動画リンクを貼っておきます。プレゼンスライドを作成する前に、色々な人の考え方を知ってから作成した方が、より「わかりやすく」「伝わりやすい」プレゼンになりうると思います。また、実際にプレゼンテーションを行っている動画がかなり出回っていますので、それらから良いところを少しづつ真似していくのもよいでしょう。プレゼンテーションに関する書籍もたくさん出ていますので、図書館や本屋で色々とみて回るのも良いです。

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一枚のスライドをどう凝るべきか?

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自己紹介

岡島 寛 (熊本大学工学部情報電気工学科准教授)

制御工学の研究をしています。モデル誤差抑制補償器,状態推定,量子化制御など

研究室HP

岡島研究室(システム制御 control-theory.com)

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