この記事では電気回路の定理として二端子対回路(四端子回路)について説明します。二端子対回路は、電気回路や通信回路において重要な概念で、入力端子対と出力端子対を持つ回路のことを指します。二端子対回路の解析は、複雑な回路をシンプルに理解し、設計および性能評価を行うために必要不可欠です。本記事では、二端子対回路の基本的な概念、代表的なパラメータ、解析方法、応用について説明します。
二端子対回路の基本
二端子対回路は次の2つの端子対から構成されます。
- 入力端子対:
- 出力端子対:
それぞれの端子対の端子間電圧がそれぞれであり、電流が
です。
ここで、図において、端子1から流入した電流は端子1'から流出します。また、端子2から流入した電流
は端子2'から流出します。このルールに沿わない回路は二端子対回路の枠組みでは扱いません。さらに、回路は線形回路網であり、抵抗・コイル・コンデンサから構成される回路とします。このとき、トランジスタなどの非線形素子は含まないことに注意してください。内部には電源は含まないことを仮定しています。
二端子対回路では4つの変数(入力電流、出力電流、入力電圧、出力電圧)を扱いますが、与えられた回路の特性を行列を用いて表します。4つの変数のうち2つが決まると残り2つが決まります。以降では、アドミタンス行列(Y行列)、インピーダンス行列(Z行列)、縦続行列(K行列)について説明します。
アドミタンス行列
アドミタンスパラメータは、入力および出力の電流と電圧の関係をアドミタンスで表します。アドミタンス行列はアドミタンスパラメータを要素に持つ2×2の行列です。という記号で表現します。
アドミタンスパラメータと立式
ここで、二端子対回路におけるアドミタンスパラメータは次の形式で表現されます。
\begin{equation}I_1 = y_{11} V_1 + y_{12} V_2 \\ I_2 = y_{21} V_1 + y_{22} V_2\end{equation}
これを、電圧ベクトルおよび電流ベクトル
で表現すると次のように記述できます。
\begin{equation} I = Y V \end{equation}
このとき、 は
を要素に持つ行列でありアドミタンス行列と呼びます。
はそれぞれアドミタンスであり、
や
など回路構成に従ったパラメータとなります。
アドミタンスパラメータの導出
アドミタンスパラメータを求めるには、回路における二量の関係を調べればよいです。具体的には、仮に二端子対回路の端子2, 2'を短絡するととすることができます。このとき、次式が成り立ちます。
\begin{equation}I_1 = y_{11} V_1 \\ I_2 = y_{21} V_1\end{equation}
ここで、と
の関係および
と
の関係を求めれば
および
が求まります。同様に二端子対回路のうち端子1, 1'を短絡して
として回路の解析を行えば
と
が求まります。なお、線形かつ電源を含まない回路では相反性が成り立つことから
が成り立ちます。(確かめてみてください。)
アドミタンス行列表現と特徴
2つの回路の並列接続を行ったとき、それぞれの回路のアドミタンス行列を、
とすると、並列接続回路のアドミタンス行列は
で表すことができます。
回路によっては、アドミタンス行列が定義できないケースも存在します。
インピーダンス行列
インピーダンスパラメータは、入力および出力の電流と電圧の関係をインピーダンスで表します。インピーダンス行列はインピーダンスパラメータを要素に持つ2×2の行列です。という記号で表現します。
インピーダンスパラメータと立式
ここで、二端子対回路におけるインピーダンスパラメータは次の形式で表現されます。
\begin{equation}V_1 = z_{11} I_1 + z_{12} I_2 \\ V_2 = z_{21} I_1 + z_{22} I_2\end{equation}
これを、電圧ベクトルおよび電流ベクトル
で表現すると次のように記述できます。
\begin{equation} V = Z I \end{equation}
このとき、 は
を要素に持つ行列でありインピーダンス行列と呼びます。
インピーダンスパラメータの導出
インピーダンスパラメータを求めるには、アドミタンスパラメータと同様に回路における二量の関係を調べればよいです。具体的には、仮に二端子対回路の端子2, 2'を開放するととすることができます。このとき、次式が成り立ちます。
\begin{equation}V_1 = z_{11} I_1 \\ V_2 = z_{21} I_1\end{equation}
ここで、と
の関係および
と
の関係を求めれば
および
が求まります。同様に二端子対回路のうち端子1, 1'を開放して
として回路の解析を行えば
と
が求まります。なお、線形かつ電源を含まない回路では相反性が成り立つことからアドミタンスパラメータの場合と同様に
が成り立ちます。(確かめてみてください。)
インピーダンス行列表現と特徴
まず、アドミタンス行列の場合と同様にインピーダンス行列が定義できないケースがあります。他方、アドミタンス行列もインピーダンス行列も共に定義できるケースでは以下の式が成り立ちます。
\begin{equation} Z = Y^{-1}\end{equation}
2つの回路の直列接続を行ったとき、それぞれの回路のインピーダンス行列を、
とすると、直列接続回路のインピーダンス行列は
で表すことができます。
縦続行列
縦続行列は、縦続接続に適した表現形式であり、二端子対回路を次のようにとらえ直します。
このとき、冒頭で示した二端子対網とは出力端子対の電流の向きが異なります。しかしながら、向きを逆にした上で電流をと定義しています。そのため、出力電流の持つ意味合いは他の表現と全く同じです。
縦続パラメータと立式
縦続パラメータはと記述します。以下の式を考えます。
\begin{equation} \begin{bmatrix} V_1 \\ I_1 \end{bmatrix} = \begin{bmatrix}A&B\\C&D\end{bmatrix}\begin{bmatrix}V_2 \\ - I_2\end{bmatrix} \end{equation}
このとき、各パラメータの導出はすなわち端子2, 2'を短絡した場合に、
と
の関係、
と
の関係を求めれば
が求まり、
とした解析で
が求まります。
縦続行列表現と特徴
縦続接続回路の縦続行列は、二つそれぞれの回路の縦続行列をおよび
とすると、次のように書くことができます。
\begin{equation} K = K_1 K_2\end{equation}
2×2の行列の掛け算であり、さらに縦続接続されても掛け算をするだけで求まります。
二端子対網の応用
二端子対網は、電気回路や電子回路の設計および解析において広く応用されています。以下にいくつかの具体的な応用例を示します:
増幅器の設計: 増幅器は、入力信号を増幅して出力する回路であり、二端子対網としてモデル化されます。パラメータや
パラメータを用いて増幅器の特性を解析し、適切な設計を行います。
フィルタの設計: フィルタは、特定の周波数帯域の信号を通過させ、他の周波数帯域の信号を減衰させる回路です。二端子対網を用いて、フィルタの伝達関数や周波数特性を解析します。
通信回路の解析: 通信回路では、送信機から受信機への信号の伝送が行われます。二端子対網の伝送パラメータを用いて、信号の伝送特性や損失を解析し、最適な設計を行います。
二端子対網の利点と課題
利点
- 簡便性:複雑な回路をシンプルなモデルで表現することで、解析や設計が容易になります。
- モジュール性:二端子対網はモジュール化されたブロックとして扱うことができ、回路の設計と解析を効率化します。
課題
- 非線形性の扱い:二端子対網の解析は主に線形回路を前提としており、非線形回路の解析には適用が難しい場合があります。
- 高周波特性:高周波領域では、分布定数回路の影響が無視できないため、二端子対網の単純なモデルが適用できないことがあります。
まとめ
二端子対網は、電気回路や電子回路の設計および解析において不可欠な概念です。インピーダンスパラメータ、アドミタンスパラメータ、縦続(伝送)パラメータ、ハイブリッドパラメータなど、さまざまなパラメータを用いて、複雑な回路の特性を簡便にモデル化し、解析することが可能です。この手法は、増幅器やフィルタ、通信回路など、多くの応用分野で広く用いられています。二端子対網の理解と適用は、電気工学や電子工学の分野での設計・解析において非常に重要です。
自己紹介
岡島 寛 (熊本大学工学部情報電気工学科准教授)
制御工学の研究をしています。モデル誤差抑制補償器,状態推定,量子化制御など
研究室HP
岡島寛 (システム制御 control-theory.com)
English Web Page
Hiroshi Okajima (Control Engineering control-theory.com)
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制御工学チャンネル(伝達関数・状態方程式・MATLABなど)
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