制御工学ブログ

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内部モデル原理の詳解【単位フィードバック系の追従制御】

この記事では内部モデル原理についてまとめます。PID制御では積分器を持つことからステップ目標値に定常偏差なく追従することが可能です。その原理を説明しているものが内部モデル原理であり、また、ステップ目標値以外でも対応できる定理であることをシミュレーションを交えて説明します。

 

内部モデル原理

出力信号 y(t) を目標信号 r(t) に追従させる追従制御問題を考えます。

 \lim_{t\rightarrow \infty} y(t)-r(t)=0

単位フィードバック系は次の図で与えられます。この単位フィードバック系を用いて内部モデル原理の説明を行います。

単位フィードバック系

 

単位フィードバック系において r から y までの入出力伝達関数は、次式で与えられます。
\begin{equation}
G_y(s) = \frac{P(s)C(s)}{1+P(s)C(s)}
\end{equation}
ここで e(t)=r(t)-y(t) とすると r から e までの入出力伝達関数として
\begin{equation}
G_e(s) = \frac{1}{1+P(s)C(s)}
\end{equation}
を得るます。また、 d から y までの入出力伝達関数は次式で与えられます。
\begin{equation}
G_d(s) = \frac{P(s)}{1+P(s)C(s)}
\end{equation}

内部モデル原理(ステップ)

単位フィードバック系に対する追従問題を扱う場合における重要な原理が内部モデル原理であり、ステップ目標値の場合は以下のように与えられます。

  • フィードバック系が内部安定であり、制御器が少なくとも一つの積分器を有するとき、ステップ目標値 r(t)=r_0 およびステップ外乱 d(t)=d_0 に対する単位フィードバック系の定常偏差は零となる。

 

ここでは、前提条件として制御対象 P(s)  s=0 に零点を持たないものとして話を進めます。単位ステップ r(t)=r_0 に対して偏差信号のラプラス変換 e(s) は次のように与えられます。
\begin{equation}
e(s) = G_e(s) \frac{r_0}{s} = \frac{1}{1+P(s)C(s)}\frac{r_0}{s}
\end{equation}
元のシステムが内部安定であり、部分分数分解した場合に \lim_{t\rightarrow \infty}e(t)=0 となるためには、次の条件を満たす必要があります。
\begin{equation}
\lim_{s=0} s\frac{1}{1+P(s)C(s)}\frac{r_0}{s} = \frac{1}{1+P(0)C(0)} r_0= 0
\end{equation}
 C(s) 積分器を持ち C(s)=C_0(s)/s と書き直せるとき
\begin{equation}
\lim_{s=0} s\frac{1}{1+P(s)C_0(s)/s}\frac{r_0}{s} = \lim_{s=0} \frac{s}{s+P(s)C_0(s)} r_0 = 0
\end{equation}
が自動で満たされます。よって、ステップ目標値 r(t) = r_0 に対して定常偏差が零となります。

他方、外乱 d(t) = d_0 に対する応答を確認します。外乱から出力までの伝達特性から
\begin{equation}
y(s) = G_d(s) d(s) = \frac{P(s)}{1+P(s)C(s)}\frac{d_0}{s}
\end{equation}
が得られます。このとき、部分分数分解した場合に \lim_{t\rightarrow \infty}y(t)=0 となるためには、次の条件を満たす必要があります。
\begin{equation}
\lim_{s=0} s\frac{P(s)}{1+P(s)C(s)}\frac{d_0}{s} = \frac{P(0)}{1+P(0)C(0)} d_0 = 0
\end{equation}
 C(s) 積分器を持ち C(s)=C_0(s)/s と書き直せるとき
\begin{equation}
\lim_{s=0} s\frac{P(s)}{1+P(s)C_0(s)/s}\frac{d_0}{s} = \lim_{s=0} \frac{sP(s)}{s+P(s)C_0(s)} d_0 = 0
\end{equation}
が自動で満たされます。よって、ステップ外乱 d(t) = d_0 に対して定常出力が零となります。

シミュレーションによる検証

制御対象を P(s)=(s+5)/(s^2+3s+2) とし、制御器として C(s)=3+5/s としたとき、制御器は積分器を有します。これに、ステップ目標値およびステップ外乱を与えた場合の応答を図に示します。ただし、 r_0=d_0=1 としています。

 

ステップ目標値に対する応答

内部モデル原理(一般)

ステップ目標値以外の信号においても内部モデル原理では次のことがいえます。

  • フィードバック系が内部安定であり、制御器が目標値信号および外乱信号のモデルと同一因子を持つ場合、目標値 r(t) および外乱 d(t) に対する単位フィードバック系の定常偏差は零となる。

サイン波や、それらの線形結合についても、制御器に信号と同じ因子を持てば良いです。

シミュレーションによる検証

ここでは例として r(t) = \sin(t) とした場合について考えます。 P(s)=(s+5)/(s^2+3s+2) とし、制御器 C(s)  C(s)=(3s^2+5s+2)/(s^2+1) とすると r(t)=\sin(t) と同じ因子を持つ制御器となります。この制御器を用いて目標値追従を行った結果を以下の図に示します。

サイン目標値および外乱に対する応答

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自己紹介

岡島 寛 (熊本大学工学部情報電気工学科准教授)

制御工学の研究をしています。モデル誤差抑制補償器,状態推定,量子化制御など

研究室HP

岡島寛 (システム制御 control-theory.com)

English Web Page

Hiroshi Okajima (Control Engineering control-theory.com)

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